象徴 「王家に捧ぐ歌」より
気がついた時には漂っていた…
彷徨いながら…流されるまま…
悠久の時にただ流されるままに…
ただこの身を任せていた…
自分が守るべき王宮は崩れ落ちていく。
自分の守るべき家も焼かれ跡形もなくなった。
自分が守るべき愛する人達は奪われた。
気がついた時には頬を殴られていた。
咄嗟にもがくけれど数人がかりで押さえつけられた。
今まで知らなかった感情が心の底から湧きあがってくる。
それは冷たくて熱く、泉のように溢れるけれど泥のように張り付いてきた。
自分はそれの名を知っていた。それは…
憎悪
そこまで考え意識が途絶える。
次に目覚めた時には誰かが側にいた。
それは自分が仕える人と自分と同じくその人に仕える者だった。
故郷にいた頃もいつも共にあった人達。
そして今も…
「サウフェ…やっと目が覚めたか。」
自分と同じ人に仕える者で幼馴染であるカマンテが声をかけてきた。
その声に自分が仕える人でエチオピア王家の長子であるウバルドが顔をあげる。
そして自分の顔を覗き込む。
慌てて身を起こそうとして身体が悲鳴をあげた。
それを見てカマンテが叱咤する。
「無理するんじゃない!この馬鹿!」
「……すみません。」
その言葉に小さく謝る。
「まだしばらく休んでいろ。サウフェ。」
ウバルドがそう声をかけてくる。
その言葉に自分自身が酷く情けないと思いながらもそれに従う。
「はい…申し訳ありません。ウバルド様。」
そう答え情けなさに涙が溢れそうになるのを堪えるため固く目を閉じた。
ウバルドが囁くように…けれど固く告げる言葉がはっきりと耳に届いた。
「いずれ…全てを取り戻す。」
そう自分は取り戻さねばならなかった。
自分の守るべきもののために…
失ったもののために…
諦めてはならない。挫けてはならない。
例えそれが命尽きる結果になろうとも…
自分を失う結果になろうとも…
たったひとつの象徴さえ打ち砕かれ絶望にこの身を染めても…
きっと自分はこの目的を果たすために生まれてきたのだと思った。
この為に自分は生き残り…この為に自分は生きてきて…この為に命を懸ける。
そっと自分の剣に口づける。
取り戻す…何もかも…
そして目的は果たされた。
その証として自分の首に剣の刃を押し当てた。
段々と自分の身体が血に染まっていく…
自分の血はとても暖かくて…冷たかった。
そんな瞬間にふと目に浮かんだもうあるはずのない景色。
目的を果たしても二度と取り戻せない現実。
けれど二度と見られないはずの景色を今、見ている。
そしてはじめて気がつく…
打ち砕かれたたったひとつの象徴の欠片が自分の中にあることに…
たったひと欠片だけが取り残されたように確かにそこにあった。
それが自身への哀れさを表しているようで悲しいと思った…
だが心のどこかでそのことにひどく安心している自分がいた。
だから残されたひと欠片を抱きしめて心から微笑む。
目に浮かぶ在りし日の景色を見つめながら…
尽き果てるまでただ微笑みつづけた。
−END−
□後書き
これも前サイトでリクエストされて書いたものです。
サウフェ視点で「象徴」とはアイーダのことと思ってもらえればいいです。
最後の辺りが書いてて1番楽しかったです。血とか…(こらこら)