夢の欠片 「永遠の祈り」より


会いたくて…けれども会いたくない人がやって来る。


あの事件以来、ずっと心の奥に眠っているこの想い。
矛盾したことを思うのはそうした想いの所為であることは知っていた。

それがどうしようもない想いであることも解っていた。

だからこそ何も言わずに彼女を迎え入れている。
頼られたからというのも大きかったけれど、それ以上に側にいてやりたかった。
彼女を危険な目に合わせたくも、傷つけたくもなかったから。


あのルイ17世だと偽った罪で投獄されている恋人に会いに来る彼女。
限られた面接日の中で一日も欠かさずにパリまでやって来る。
そんな彼女のためにしてやれることはその滞在のために屋敷の部屋を提供して
面倒見るくらいしかないけれど。それでも何もできないよりはマシだった。

それでいいはずなのに…何故こんな矛盾した思いが込み上げるのだろう。

彼女に対する想いが伝えられるわけもなく、伝わることもない。
自分の恋が成就することがないことはとっくに解っていた。


それなのに彼女が来る度にこの胸の奥が焦がれ…

彼女の明るい笑顔に小さな疼きを感じずにはいられない。


そんなことは彼女は知らない。
知らないことで彼女が笑っていてくれるなら、それでいいはずなのに。
時々、どうしようもなくその想いを彼女に伝えたいと思ってしまう。

彼女がそれを知ったらどう思うだろうか…?

あの笑顔も見られなくなってしまうのだろうか…?



「あの…聞いています?」

突然、彼女に顔を覗き込まれて思わず目を丸くした。
その反応に彼女も少し驚いたように目を見張り、けれどすぐに笑顔に変わった。
漸くそれで自分がつい考え込んでいたことに気がついた。
彼女が来ている時だというのに…らしくないと思った。

「何をそんなに考え込んでいたの?お仕事の事? それとも…。」

「それとも…?」

「どなたか気になる女性のことかしら?」

それはまさに図星であった。咄嗟にさっきの衝動が湧き上がる。
けれど次の瞬間には否定する言葉が出てきた。

「それは…違いますよ。」

「そう…なんですか。ごめんなさい変なこと言って。」

「いや、気にしないで。」

微笑みながらそう言う自分にその時、確信した。
もし、そうなったとしても構わないと思うけれど…
それが現実となることは決してないのだと。


解っていたから…


この想いが伝わることがないのをではなくて…
この想いによって彼女を苦しめたくないことを。
彼女を傷つけることはしたくはない自分がいるということを。


それが愛というものかは知らないけれど。

少なくともきっと誰かを想っていることの証にはなるのだろうと思う。
今はそれが救いとはとてもなり得ないけれど、いつかそう思えるのだろう。

だって彼女は知らない。

知らないことは罪ではないのだと思い知る。

知らないことはただ残酷なものだと。


罪のない残酷な笑顔で優しく明るく照らしてくれる彼女。


それはとても甘く切なくて…そして苦しくて痛い。




会いたくはない彼女がまたやって来る。

だが私はいつものように笑顔でそれを迎えるのだ。



会いたくはない彼女、けれども会いたい…



私が恋した心優しいアンヌ



― END ―





□後書き
携帯サイト掲載移行作品3です。
『永遠の祈り』のその後という設定、二コラス視点で書いてます。

拙いんですが…結構お気に入り?みたいな(笑)
うんでも一時は本気で忘れてたブツなんですけど(おい)

言うに言えない、逃げるに逃げられない状況にいる切ない二コラスが大好きです(爽やかに)