黄昏時 「ロマンチカ宝塚'04」より


 祭が最も盛り上がる時間

 私がとても楽しみにしていた時間

 なのに、何かに呼ばれるように、引き寄せられるかのように何故か人気の絶えた
 裏路地へと足を進めている
 急に周りに霧が立ち込めたように視界がぼやけた祭の賑やかな人々の声や
 楽しげだが耳五月蝿いほどの音楽も今は聞こえない
 それでも迷路のような、それでいてまっすぐにも感じる路を歩き続けたやがて、
 小さな橋の袂に辿り着くとそこで私は漸く足を止めた

 此処に来たことがまるで自分の意志ではないかのようでほんの少し怖くなる

 けれどそんな些細な感情は目の前に霧が晴れるように映しだされた橋の真ん中に立つ
 1人の少年にあっけなく掻き消されていた
 細くて華奢な身体つき、驚くほど綺麗に繊細に整った顔、神が創りし至高の彫刻のようだ

 少年なのだろうと思うけれど

 少年と呼ぶにはあまりに美しく華奢な

 けれど少女と呼ぶにはあまりに強く揺れる瞳

 着ているものは確かに男ものだ、だから少年なのだろうと思った、それで正しいのだと
 その少年はこちらにの気配には気づかなかったのか、顔をあげようともしないで橋の下を
 静かに見つめていた

 何を…?

 そう思った瞬間、その少年の身体が唐突にかしいだかと思うと、
 あっけなく橋の下にたゆたう水に吸い込まれていく
 咄嗟に駆け寄って手を差し出したけれど、間に合うわけはなかった
 少年が水に呑まれるほんの束の間の一瞬、少年の瞳がはじめてこちらを映し出した


 少年は息を呑むほど綺麗な微笑みを湛えて


 水音は聞こえなかった、橋の下を流れる水を見るとそこには波紋ひとつ浮かんではいない
 はじめから何もなかったかのように悠々と水が流れている、何も変らずに流れていた



 水の流れは変らずにその中の悪魔がそっと嘲笑って誘っていただけで…







 その時、思い出す



 祭の黄昏時にはお気をつけと言った昔の懐かしい声を


 その声が語った哀しくて寂しくて残酷な遠い国の悪魔の昔語りを



 それがこの世の最後の記憶

 夢に溺れる直前に見た懐かしい面影


 黄昏時の影と共に






  <終>





□後書き
携帯サイト移行作品その2です。今回は追記しました。
「ロマンチカ」よりプロローグの導入直前のお話って感じですか。
漏れるがまま適当に短時間で仕上げて書いたものなので、少々、手直しと追筆。